3.2 標準型の階層

以下は Python に組み込まれている型のリストです。(C、Java、または 実装に使われているその他の言語で書かれた) 拡張モジュールでは、 その他に新たな型を定義することができます。将来のバージョンの Python では、型の階層に新たな型 (整数を使って効率的に記憶される 有理数型、など) を追加することができるかもしれません。

以下に説明する型のいくつかには、`特殊属性 (special attribute)' と題された段落が連ねられています。これらの属性は実装へのアクセス 手段を提供するもので、一般的な用途に利用するためのものではありません。 特殊属性の定義は将来変更される可能性があります。

None
この型には単一の値しかありません。この値を持つオブジェクトはただ 一つしか存在しません。このオブジェクトは組み込み名 None でアクセスされます。このオブジェクトは、様々な状況で値が 存在しないことをしめします。例えば、明示的に値を返さない関数 は None を返します。None の真値 (truth value) は 偽 (false) です。

NotImplemented
この型には単一の値しかありません。この値を持つオブジェクトはただ 一つしか存在しません。このオブジェクトは組み込み名 NotImplemented でアクセスされます。数値演算に関するメソッドや拡張比較 (rich comparison) メソッドは、被演算子が該当する演算を行うための実装をもたない場合、 この値を返すことがあります。(演算子によっては、インタプリタが 関連のある演算を試したり、他の代替操作を行います。) 真値は真 (true) です。

Ellipsis
この型には単一の値しかありません。この値を持つオブジェクトはただ 一つしか存在しません。このオブジェクトは組み込み名 Ellipsis でアクセスされます。スライス内に "..." 構文がある場合に 使われます。真値は真 (true)です。

Numbers
数値リテラルによって作成されたり、算術演算や組み込みの算術関数に よって返されるオブジェクトです。数値オブジェクトは変更不能です; 一度値が生成されると、二度と変更されることはありません。Python の数値オブジェクトはいうまでもなく数学で言うところの数値と 強く関係していますが、コンピュータ内で数値を表現する際に伴う 制限を受けています。

Python は整数、浮動小数点数、複素数の間で区別を行っています:

整数型 (integer)

整数型は、整数(正の数および負の数)を表す数学的集合内における要素を 表現する型です。

以下に三つの整数型を示します:

(通常の) 整数型 (plain integer)
-2147483648 から 2147483647 までの整数を表現します (基本ワードサイズ: natural word size がより大きなマシンではより大きな定義域になることも あります。より小さくなることはありません。) 演算の結果が定義域を超えた値になった場合、結果は通常長整数で 返されます (場合によっては、 OverflowError が送出され ます) 。 シフト演算やマスク演算のために、整数は 32 ビット以上の 2 の補数で 表されたバイナリ表現を持つ (すなわち、4294967296 の異なったビット パターン全てが異なる値を持つ) と仮定されています。

長整数型 (long integer)
長整数は無限の定義域を持ち、利用可能な (仮想) メモリサイズの制限 のみをうけます。長整数はシフト演算やマスク演算のためにバイナリ表現を もつものと仮定されます。負の数は符号ビットが左に無限に延びているような 錯覚を与える 2 の補数表現の変型で表されます。

ブール型 (boolean)
ブール型は、真値 False または True を表現します。ブール型の オブジェクトは False と True を表現する二つのオブジェクト だけです。ブール型は整数のサブタイプで、ほとんどの演算コンテキストに おいてブール型値はそれぞれ 0 または 1 のように振舞います。 ただし、文字列に変換されたときのみ、それぞれ文字列 "False" および "True" が返されます。

整数表現に関する規則は、シフト演算やマスク演算において、負の整数 も含めて最も有意義な解釈ができるように、かつ通常の整数と長整数 との間で定義域を切り替える際にできるだけ混乱しないように決められて います。左シフト以外の演算では、演算結果がオーバフローを起こさずに 整数の定義域の値になる場合は、長整数を使った場合でも、被演算子に 整数と長整数を混合した場合でも同じ結果になります。

浮動小数点数型 (floating point number)
この型は計算機レベルで倍精度とされている浮動小数点数を 表現します。表現可能な値の範囲やオーバフローの扱いは、 根底にある計算機アーキテクチャ (と C または Java 実装) 次第です。 Python は単精度の浮動小数点数をサポートしません; 単精度の 数を使う理由は、通常プロセッサやメモリ使用量の節約ですが、 こうした節約は Python でオブジェクトを扱う際のオーバヘッドに比べれば 微々たるものにすぎません。従って、わざわざ浮動小数点型を 2 つも 定義してPython 言語を難解にする理由はどこにもないのです。

複素数型 (complex number)
この型は、計算機レベルで倍精度とされている浮動小数点を 2 つ一組 にして複素数を表現します。浮動小数点について述べたのと同じ性質 が当てはまります。複素数 z の実数部および虚数部は、 それぞれ読み出し専用属性 z.real および z.imag で取り出すことができます。

シーケンス型 (sequence)
この型は、有限の順序集合 (ordered set) を表現します。要素は非負の 整数でインデクス化されています。組み込み関数 len() を使うと、シーケンスの要素数を返します。 シーケンスの長さが n の場合、インデクスは 0, 1, ..., n-1 からなる集合です。シーケンス a の要素 ia[i] で選択します。

シーケンスはスライス操作 (slice) もサポートしています: a[i:j] とすると、 i <= k < j であるインデクス k をもつ全ての要素を選択します。 式表現としてスライスを用いた場合、スライスは同じ型をもつ新たなシーケンスを 表します。新たなシーケンス内では、インデクス集合が 0 から始まるように インデクスの値を振りなおします。

シーケンスによっては、 第三の ``ステップ (step)'' パラメタを持つ ``拡張スライス (extended slice)'' もサポートしています: a[i:j:k] は、 x = i + n*k, n >= 0 かつ i <= x < j であるような インデクス x を持つような a 全ての要素を選択します。

シーケンスは、変更可能なものか、そうでないかで区別されています:

変更不能なシーケンス (immutable sequence)
変更不能なシーケンス型のオブジェクトは、一度生成されるとその値を 変更することができません。 (オブジェクトに他のオブジェクトへの 参照が入っている場合、参照されているオブジェクトは変更可能な オブジェクトでもよく、その値は変更される可能性があります; しかし、変更不能なオブジェクトが直接参照しているオブジェクトの 集合自体は、変更することができません。)

以下の型は変更不能なシーケンス型です:

文字列型 (string)
文字列の各要素は文字 (character) です。文字型 (character type) は存在しません; 単一の文字は、要素が一つだけの文字列として 表現されます。各文字は (少なくとも) 8-bit のバイト列を表現します。 組み込み関数 chr() および ord() を使うと、文字と非負の整数で表された バイト値の間で変換を行えます。0-127 の値を持つバイト値は、通常 同じ ASCII 値をもつ文字を表現していますが、値をどう解釈するかは プログラムにゆだねられています。文字列データ型はまた、例えば ファイルから読み出されたデータを記憶するといった用途で、バイト値の アレイを表現するために用いられます。

(ネイティブの文字セットが ASCIIでないシステムでは、chr()ord() が ASCII と EBCDIC との間で対応付けを行っており、 文字列間の比較で ASCII 順が守られる限り、文字列の内部表現として EBCDIC を使ってもかまいません。誰か他にもっとましなルールをお持ちですか?)

Unicode 文字列型
Unicode オブジェクトの各要素は Unicode コード単位です。 Unicode コード単位とは、単一の Unicode オブジェクトで、Unicode 序数を 表現する 16-bit または 32-bit の値を保持できるものです (この序数の最大値は sys.maxunicode で与えられており、コンパイル時に Python がどう設定されているかに依存します)。 Unicode オブジェクト内 にサロゲートペア (surrogate pair) があってもよく、Python は サロゲートペアを二つの別々の Unicode 要素として報告します。 組み込み関数 unichr() および ord() は、コード単位と非負の整数で表された Unicode 標準 3.0 で定義された Unicode 序数との間で変換を行います。 他の文字エンコード形式との相互変換は、 Unicode メソッド encode() および組み込み関数 unicode()で行うことができます。

タプル型 (tuple)
タプルの要素は任意の Python オブジェクトにできます。 二つまたはそれ以上の要素からなるタプルは、個々の要素を表現する 式をカンマで区切って構成します。単一の要素からなるタプル (単集合 `singleton') を作るには、要素を表現する式の直後に カンマをつけます (単一の式だけではタプルを形成しません。 これは、式をグループ化するのに丸括弧を使えるようにしなければ ならないからです) 。要素の全くない丸括弧の対を作ると空のタプルに なります。

変更可能なシーケンス型 (mutable sequence)
変更可能なシーケンスは、作成した後で変更することができます。 変更可能なシーケンスでは、添字表記やスライス表記を使って指定された要素に 代入を行うことができ、del (delete) 文を使って要素を 削除することができます。

Python に最初から組み込まれている変更可能なシーケンス型は、今のところ 一つだけです:

リスト型 (list)
リストの要素は任意の Python オブジェクトにできます。リストは、 角括弧の中にカンマで区切られた式を並べて作ります。 (長さが 0 や 1 のシーケンスを作るために特殊な場合分けは必要ないことに 注意してください。)

拡張モジュール array では、別の 変更可能なシーケンス型を提供しています。

マップ型 (mapping)
任意のインデクス集合でインデクス化された、有限のオブジェクトからなる 集合を表現します。添字表記 a[k] は、k でインデクス指定 された要素を a から選択します; 選択された要素は式の中で 使うことができ、代入や del 文の対象にすることができます。 組み込み関数 len() は、マップ内の要素数を返します。

Python に最初から組み込まれているマップ型は、今のところ 一つだけです:

辞書型 (dictionary)
ほとんどどんな値でもインデクスとして使えるような、 有限個のオブジェクトからなる集合を表します。キー値 (key) として使えない 値は、リストや辞書を含む値や、アイデンティティではなく値でオブジェクトが 比較される、その他の変更可能な型です。これは、辞書型を効率的に 実装する上で、キーのハッシュ値が一定であることが必要だからです。 数値型をキーに使う場合、キー値は通常の数値比較における規則に 従います: 二つの値が等しくなる場合 (例えば 11.0)、 互いに同じ辞書のエントリを表すインデクスとして使うことができます。

辞書は変更可能な型です; 辞書は {...} 表記で生成します ( 5.2.6 節, ``辞書表現'' を参照してください)。

拡張モジュール dbmgdbm 、および bsddb では、別のマップ型を提供 しています。

呼び出し可能型 (callable type)
関数呼び出し操作 ( 5.3.4 節、``呼び出し (call)'' 参照) を行うことができる型です:

ユーザ定義関数 (user-defined function)
ユーザ定義関数オブジェクトは、関数定義を行うことで生成されます ( 7.6 節、``関数定義'' 参照)。関数は、仮引数 (formal parameter) リストと同じ数の要素が入った引数リストと ともに呼び出されます。

特殊属性:

Attribute Meaning
func_doc 関数のドキュメンテーション文字列です。 ドキュメンテーションがない場合は None になります。 書き込み可能
__doc__ func_doc の別名です。 書き込み可能
func_name 関数の名前です。 書き込み可能
__name__ func_name の別名です。 書き込み可能
__module__ 関数が定義されているモジュールの名前です。 モジュール名がない場合は None になります。 書き込み可能
func_defaults デフォルト値を持つ引数に対するデフォルト値が 収められたタプルで、デフォルト値を持つ引数がない場合には None になります。 書き込み可能
func_code コンパイルされた関数本体を表現するコード オブジェクトです。 書き込み可能
func_globals 関数のグローバル変数の入った辞書 (への参照) です -- この辞書は、関数が定義されているモジュールのグローバルな名前空間を決定します。 読み出し専用
func_dict 任意の関数属性をサポートするための名前空間が 収められています。 書き込み可能
func_closure None または関数の個々の自由変数 (引数以外の変数) に対して値を結び付けている セル (cell) 群からなるタプルになります。 読み出し専用

「書き込み可能」 とラベルされている属性のほとんどは、代入された値の 型をチェックします。

バージョン 2.4 で 変更 された仕様: func_name は書き込み可能になりました

関数オブジェクトはまた、任意の属性を設定したり取得したりできます。 この機能は、例えば関数にメタデータを付与したい場合などに使えます。 関数の get や set には、通常のドット表記を使います。 現在の実装では、ユーザ定義の関数でのみ属性をサポートしているので 注意して下さい。組み込み関数の属性は将来サポートする予定です。

関数定義に関するその他の情報は、関数のコードオブジェクトから得られます; 後述の内部型 (internal type) に関する説明を参照してください。

ユーザ定義メソッド (user-defined method)
ユーザ定義のメソッドオブジェクトは、クラスやクラスインスタンス (あるいは None) を任意の呼び出し可能オブジェクト (通常は ユーザ定義関数) と結合し (combine) ます。

読み出し専用の特殊属性: im_self は クラスインスタンスオブジェクトで、im_func は関数オブジェクト です; im_class は結合メソッド (bound method) において im_self が属しているクラスか、あるいは非結合メソッド (unbound method) において、要求されたメソッドを定義している クラスです; __doc__ はメソッドのドキュメンテーション文字列 (im_func.__doc__ と同じ) です; __name__ はメソッドの 名前 (im_func.__name__ と同じ) です; __module__ は メソッドが定義されているモジュールの名前になるか、モジュール名が ない場合は None になります。 バージョン 2.2 で 変更 された仕様: メソッドを定義しているクラスを参照するために im_self が使われていました

メソッドもまた、根底にある関数オブジェクトの任意の関数属性 に (値の設定はできませんが) アクセスできます。

クラスの属性を (おそらくクラスのインスタンスを介して) 取得する際には、 その属性がユーザ定義の関数オブジェクト、非結合 (unbound) のユーザ定義 メソッドオブジェクト、あるいはクラスメソッドオブジェクトであれば、 ユーザ定義メソッドオブジェクトが生成されることがあります。 属性がユーザ定義メソッドオブジェクトの場合、属性を取得する対象の オブジェクトが属するクラスがもとのメソッドオブジェクトが定義されている クラスと同じクラスであるか、またはそのサブクラスであれば、新たな メソッドオブジェクトだけが生成されます。 それ以外の場合には、もとのメソッドオブジェクトがそのまま使われます。

クラスからユーザ定義関数オブジェクトを取得する方法でユーザ定義 メソッドオブジェクトを生成すると、 im_self 属性は None になり、メソッドオブジェクトは非結合 (unbound) であるといいます。クラスのインスタンスからユーザ定義関数 オブジェクトを取得する方法でユーザ定義メソッドオブジェクトを 生成すると、im_self 属性はインスタンスになり、 メソッドオブジェクトは結合 (bound) であるといいます。 どちらの場合も、新たなメソッドの im_class 属性は、 メソッドの取得が行われたクラスになり、im_func 属性は もとの関数オブジェクトになります。

クラスやインスタンスから他のユーザ定義メソッドオブジェクトを 取得する方法でユーザ定義メソッドオブジェクトを生成した場合、 その動作は関数オブジェクトの場合と同様ですが、新たなインスタンスの im_func 属性はもとのメソッドオブジェクトの属性ではなく、 新たなインスタンスの属性になります。

クラスやインスタンスからクラスメソッドオブジェクトを取得する 方法でユーザ定義メソッドオブジェクトを生成した場合、 im_self 属性はクラス自体 (im_class 属性と 同じ) となり、im_func 属性はクラスメソッドの根底に ある関数オブジェクトになります。

非結合ユーザ定義メソッドオブジェクトの呼び出しの際には、 根底にある関数 (im_func) が呼び出されます。このとき、 最初の引数は適切なクラス (im_class) またはサブクラスの インスタンスでなければならないという制限が課されています。

結合ユーザ定義メソッドオブジェクトの呼び出しの際には、 根底にある関数 (im_func) が呼び出されます。このとき、 クラスインスタンス (im_self) が引数の先頭に挿入され ます。例えば、関数 f() の定義が入ったクラスを C とし、xC のインスタンスとすると、 x.f(1) の呼び出しは C.f(x, 1) と同じになります。

ユーザ定義メソッドオブジェクトがクラスオブジェクトから導出される際、 im_self に記憶されている ``クラスインスタンス'' はクラス 自体になります。これは、x.f(1)C.f(1) の呼び出しが 根底にある関数を f としたときの呼び出し f(C,1) と 等価になるようにするためです。

関数オブジェクトから (結合または非結合の) メソッドオブジェクトへの 変換は、クラスやインスタンスから属性を取り出すたびに行われるので 注意してください。場合によっては、属性をローカルな変数に代入して おき、その変数を使って関数呼び出しを行うと効果的な最適化になります。 また、上記の変換はユーザ定義関数に対してのみ起こるので注意してください; その他の呼び出し可能オブジェクト (および呼び出し可能でない全ての オブジェクト) は、変換を受けずに取り出されます。それから、 クラスインスタンスの属性になっているユーザ定義関数は、結合メソッドに 変換できないと知っておくことも重要です; 結合メソッドへの変換が 行われるのは、関数がクラスの一属性である場合 だけ です。

ジェネレータ関数 (generator function)
yield 文 ( 6.8 節、``yield 文'' 参照) を使う関数またはメソッドは、ジェネレータ関数 (generator function) と呼ばれます。このような関数は、呼び出された 際に、常にイテレータオブジェクトを返します。このイテレータオブジェクトは 関数の本体を実行するために用いられます: イテレータの next() メソッドを呼び出すと、yield 文で値を出力する処理まで関数の 実行が行われます。関数が return 文を実行するか、関数を最後まで 実行し終えると、StopIteration 例外が送出され、イテレータが 返す値の集合はそこで終わります。

組み込み関数 (built-in function)
組み込み関数オブジェクトはC関数へのラッパです。組み込み関数の例は len()math.sin() (math は標準の組み込み モジュール) です。引数の数や型は C 関数で決定されています。 読み出し専用の特殊属性: __doc__ は関数のドキュメンテーション 文字列です。ドキュメンテーションがない場合は None になります; __name__ は関数の名前です; __self__None に設定されています (組み込みメソッドの節も参照してください); __module__ は、関数が定義されているモジュールの名前です。 モジュール名がない場合は None になります。

組み込みメソッド (built-in method)
実際には組み込み関数を別の形で隠蔽したもので、こちらの場合には C 関数に渡される何らかのオブジェクトを非明示的な外部引数として 持っています。組み込みメソッドの例は、alist をリストオブジェクト としたときの alist.append() です。 この場合には、読み出し専用の属性 __self__alist で表されるオブジェクトになります。

クラス型 (class type)
クラス型、あるいは ``新しいクラス型 (new-style class)'' や呼び出し可能 オブジェクトです。クラス型オブジェクトは通常、そのクラスの新たな インスタンスを生成する際のファクトリクラスとして振舞いますが、 __new__() をオーバライドして、バリエーションを持たせることも できます。呼び出しの際に使われた引数は __new__() に渡され、 さらに典型的な場合では新たなインスタンスを初期化するために __init__() に渡されます。

旧クラス型 (classic class)
(旧) クラスオブジェクトは後で詳しく説明します。クラスオブジェクトが 呼び出されると、新たにクラスインスタンス (後述) が生成され、返されます。 この操作には、クラスの __init__() メソッドの呼び出し (定義されている場合) が含まれています。呼び出しの際に使われた引数は、 すべて __init__() メソッドに渡されます。 __init__() メソッドがない場合、クラスは引数なしで呼び出さなければ なりません。

クラスインスタンス (class instance)
クラスインスタンスは後で詳しく説明します。クラスインスタンスは クラスが __call__() メソッドを持っている場合にのみ呼び出す ことができます; x(arguments) とすると、 x.__call__(arguments) 呼び出しを短く書けます。

モジュール (module)
モジュールは import 文で import します ( 6.12 節、 ``import 文'' 参照)。モジュールオブジェクトは、辞書オブジェクト (モジュール内で定義されて いる関数が func_globals 属性で参照している辞書です) で実装された 名前空間を持っています。属性への参照は、この辞書に対する検索 (lookup) に翻訳されます。例えば、m.xm.__dict__["x"] と同じです。 モジュールオブジェクトには、モジュールを初期化するために使われる コードオブジェクトは入っていません (一度初期化が終わればもう必要 ないからです)。

属性の代入を行うと、モジュールの名前空間辞書の内容を更新します。 例えば、 "m.x = 1" は "m.__dict__["x"] = 1" と同じです。

読み出し専用の特殊属性: __dict__ はモジュールの名前空間で、 辞書オブジェクトです。

定義済みの (書き込み可能な) 属性: __name__ はモジュールの名前です; __doc__ は関数のドキュメンテーション 文字列です。ドキュメンテーションがない場合は None になります; モジュールがファイルからロードされた場合、 __file__ はロード されたモジュールファイルのパス名です。インタプリタに静的にリンクされて いる C モジュールの場合、__file__ 属性はありません; 共有ライブラリから動的にロードされた拡張モジュールの場合、この属性は 共有ライブラリファイルのパス名になります。

クラス
クラスオブジェクトはクラス定義 ( 7.7 節、 ``クラス定義'' 参照) で生成されます。クラスは辞書で実装された名前空間を持っています。 クラス属性への参照は、この辞書に対する検索 (lookup) に翻訳されます。例えば、C.xC.__dict__["x"] と同じです。 属性がこの検索で見つからない場合、現在のクラスの基底クラスへと 検索を続けます。検索は深さ優先 (depth-first)、かつ基底クラスの 挙げられているリスト中の左から右 (left-to-right) の順番で行われ ます。

クラス (C とします) への属性参照で、要求している属性が ユーザ定義関数オブジェクトや、C やその基底クラスに関連付け られている非結合のユーザ定義メソッドオブジェクトである場合、 im_class 属性が C であるような非結合ユーザ定義 メソッドオブジェクトに変換されます。 要求している属性がクラスメソッドオブジェクトの場合、 im_class とその im_self 属性がどちらも C であるようなユーザ定義メソッドオブジェクトに変換されます。 要求している属性が静的メソッドオブジェクトの場合、静的メソッド オブジェクトでラップされたオブジェクトに変換されます。 クラスから取り出した属性と実際に __dict__ に入っている ものが異なるような他の場合については、 3.4.2 節を 参照してください。

クラス属性を代入すると、そのクラスの辞書だけが更新され、基底クラスの 辞書は更新しません。

クラスオブジェクトを呼び出す (上記を参照) と、クラスインスタンスを 生成します (下記を参照)。

特殊属性: __name__ はクラス名です; __module__ はクラスが定義されているモジュールの名前です; __dict__ はクラスの名前空間が入った辞書です; __bases__ は基底クラスの入った (空、あるいは単要素を取りえる) タプルで、基底クラスリストの順番になっています; __doc__ は クラスのドキュメンテーション文字列です。ドキュメンテーション文字列が ない場合には None になります。

クラスインスタンス
クラスインスタンスはクラスオブジェクト (上記参照) を呼び出して 生成します。クラスインスタンスは辞書で実装された名前空間を持って おり、属性参照の時にはこの辞書が最初に検索されます。 辞書内に属性が見つからず、かつインスタンスのクラスに該当する 属性名がある場合、検索はクラス属性にまで広げられます。 見つかったクラス属性がユーザ定義関数オブジェクトや、 インスタンスのクラス (C とします) やその基底クラスに関連 付けられている非結合のユーザ定義メソッドオブジェクトの場合、 im_class 属性が Cim_self 属性が インスタンスになっている結合ユーザ定義メソッドオブジェクトに変換 されます。静的メソッドやクラスメソッドオブジェクトもまた、 C から取り出した場合と同様に変換されます; 上記の ``クラス'' を参照してください。 クラスから取り出した属性と実際に __dict__ に入っている ものが異なるような他の場合については、 3.4.2 節を 参照してください。 クラス属性が見つからず、かつオブジェクトのクラスが __getattr__() メソッドを持っている場合、このメソッドを 呼び出して属性名の検索を充足させます。

属性の代入や削除を行うと、インスタンスの辞書を更新しますが、クラスの 辞書を更新することはありません。クラスで __setattr__()__delattr__() メソッドが定義されている場合、直接インスタンスの 辞書を更新する代わりにこれらのメソッドが呼び出されます。

クラスインスタンスは、ある特定の名前のメソッドを持っている 場合、数値型やシーケンス型、あるいはマップ型のように振舞うことが できます。 3.4 節、 ``特殊メソッド名'' を参照 してください。

特殊属性: __dict__ は属性の辞書です; __class__ はインスタンスのクラスです。

ファイル (file)
ファイル オブジェクトは開かれたファイルを表します。 ファイルオブジェクトは組み込み関数 open() や、os.popen(), os.fdopen(), および socke オブジェクトの makefile()メソッド (その他の拡張モジュールで提供されている関数やメソッド) で生成 されます。sys.stdin, sys.stdout および sys.stderr といったオブジェクトは、 インタプリタの標準入力、標準出力、および標準エラー出力 ストリームに対応するよう初期化されます。ファイルオブジェクトに 関する完全な記述については、Python ライブラリ リファレンス を参照してください。

内部型 (internal type)
インタプリタが内部的に使っているいくつかの型は、ユーザに公開されています。 これらの定義は将来のインタプリタのバージョンでは変更される可能性が ありますが、ここでは記述の完全性のために触れておきます。

コードオブジェクト
コードオブジェクトは バイトコンパイルされた (byte-compiled) 実行可能な Python コード、別名 バイトコード (bytecode) を 表現します。コードオブジェクトと関数オブジェクトの違いは、 関数オブジェクトが関数のグローバル変数 (関数を定義しているモジュールの グローバル) に対して明示的な参照を持っているのに対し、コードオブジェクト にはコンテキストがないということです; また、関数オブジェクトでは デフォルト引数値を記憶できますが、コードオブジェクトではできません (実行時に計算される値を表現するため)。関数オブジェクトと違い、 コードオブジェクトは変更不可能で、変更可能なオブジェクトへの参照を (直接、間接に関わらず) 含みません。

読み出し専用の特殊属性: co_name は関数名を表します; co_argcount は固定引数 (positional argument) の数です; co_nlocals は関数が使う (引数を含めた) ローカル変数の数です; co_varnames はローカル変数名の入ったタプルです (引数名 から始まっています); co_cellvars はネストされた関数で 参照されているローカル変数の名前が入ったタプルです; co_freevars は自由変数の名前が入ったタプルです。 co_code はバイトコード列を表現している文字列です; co_consts はバイトコードで使われているリテラルの入った タプルです; co_names はバイトコードで使われている名前 の入ったタプルです; co_filename はバイトコードのコンパイル が行われたファイル名です; co_firstlineno は関数の最初の 行番号です; co_lnotab はバイトコードオフセットから行番号 への対応付けをコード化した文字列です (詳細についてはインタプリタの ソースコードを参照してください); co_stacksize は関数で (ローカル変数の分も含めて) 必要なスタックサイズです; co_flags はインタプリタ用の様々なフラグをコード化した 整数です。

以下のフラグビットが co_flags で定義されています: 0x04 ビットは、関数が "*arguments" 構文を使って 任意の数の固定引数を受理できる場合に立てられます; 0x08 ビットは、関数が "**keywords" 構文を使って キーワード引数を受理できる場合に立てられます; 0x20 ビットは、関数がジェネレータである場合に立てられます。

将来機能 (future feature) 宣言 ("from __future__ import division") もまた、co_flags のビットを立てることで、コードオブジェクトが 特定の機能を有効にしてコンパイルされていることを示します: 0x2000 ビットは、関数が将来機能を有効にしてコンパイルされて いる場合に立てられます; 以前のバージョンの Python では、0x10 および 0x1000 ビットが使われていました。

co_flags のその他のビットは将来に内部的に利用するために 予約されています。

コードオブジェクトが関数を表現している場合、co_consts の最初の 要素は関数のドキュメンテーション文字列 になります。ドキュメンテーション文字列が定義されていない場合には None になります。

フレーム (frame) オブジェクト
フレームオブジェクトは実行フレーム (execution frame) を表します。 実行フレームはトレースバックオブジェクト内に出現します (下記参照)。

読み出し専用の特殊属性: f_back は (呼び出し側にとっての) 以前のスタックフレームです。呼び出し側がスタックフレームの最下段で ある場合には None です; f_code は現在のフレームで 実行しようとしているコードオブジェクトです; f_locals はローカル変数を検索するために使われる辞書です; f_globals はグローバル変数用です; f_builtins は組み込みの (Python 固有の) 名前です; f_restricted は、関数が制限つき実行 (restricted execution) モードで実行されているかどうかを示すフラグです; f_lasti は厳密な命令コード (コードオブジェクト中のバイトコード文字列への インデクス) です。

書き込み可能な特殊属性: f_traceNone でない場合、 各ソースコード行の先頭で呼び出される関数になります; f_exc_type, f_exc_value, f_exc_traceback は、現在のフレームが以前に引き起こした例外が提供する親フレーム内で もっとも最近捕捉された例外を表します (それ以外の場合は、これらはNoneになります。); f_lineno はフレーム中における現在の行番号です -- トレース関数 (trace function) 側でこの値に書き込みを行うと、指定した行にジャンプ します (最下段の実行フレームにいるときのみ) 。デバッガでは、 f_fileno を書き込むことで、ジャンプ命令 (Set Next Statement 命令とも 呼ばれます) を実装できます。

トレースバック (traceback) オブジェクト
トレースバックオブジェクトは例外のスタックトレースを表現します。 トレースバックオブジェクトは例外が発生した際に生成されます。 例外ハンドラを検索して実行スタックを戻っていく際、戻ったレベル 毎に、トレースバックオブジェクトが現在のトレースバックの前に 挿入されます。例外ハンドラに入ると、スタックトレースを プログラム側で利用できるようになります ( 7.4 節 ``try 文'' を参照)。 トレースバックは sys.exc_traceback として得ることができ、 sys.exc_info() が返すタプルの三番目の要素としても得られます. インタフェースとしては後者の方が推奨されていますが、これは プログラムがマルチスレッドを使っている場合に正しく動作するからです。 プログラムに適切なハンドラがない場合、スタックトレースは (うまく 書式化されて) 標準エラーストリームに書き出されます; インタプリタが 対話的に実行されている場合、sys.last_traceback として 得ることもできます。

読み出し専用の特殊属性: tb_next はスタックトレース内の (例外の発生しているフレームに向かって) 次のレベルです。 次のレベルが存在しない場合には None になります; tb_frame は現在のレベルにおける実行フレームを指します; tb_lineno は例外の発生した行番号です; tb_lasti は厳密な命令コードです。トレースバック内の行番号や最後に実行された 命令は、try 文内で例外が発生し、かつ対応する except 節や finally 節がない場合には、 フレームオブジェクト内の行番号とは異なるかもしれません。

スライス (slice) オブジェクト
スライスオブジェクトは 拡張スライス構文 (extended slice syntax) が使われた際にスライスを表現するために使われます。拡張スライス構文とは、 二つのコロンや、コンマで区切られた複数のスライスや省略符号 (ellipse) を使ったスライスで、例えば a[i:j:step]a[i:j, k:l] 、 あるいは a[..., i:j] です。スライスオブジェクトは組み込み関数 slice() で生成されます。

読み出し専用の特殊属性: start は下境界 (lower bound) です; stop は上境界 (upper bound) です; step はステップ値 (step value) です; それぞれ省略されている場合には None になります。 これらの属性は任意の型の値をとることができます。

スライスオブジェクトはメソッドを一つサポートします:

indices( self, length)
このメソッドは単一の整数引数 length を取り、length 個の要素からなるシーケンスに適用した際にスライスオブジェクトから提供 することになる、拡張スライスに関する情報を計算します。 このメソッドは三つの整数からなるタプルを返します; それぞれ start および stop のインデクスと、step または スライス間の幅に対応します。インデクス値がないか、範囲外の値 である場合、通常のスライスに対して一貫性のあるやりかたで扱われます。 バージョン 2.3 で 新たに追加 された仕様です。

静的メソッド (static method) オブジェクト
静的メソッドは、上で説明したような関数オブジェクトからメソッド オブジェクトへの変換を阻止するための方法を提供します。静的メソッド オブジェクトは他の何らかのオブジェクト、通常はユーザ定義メソッド オブジェクトを包むラッパです。静的メソッドをクラスやクラスインスタンス から取得すると、実際に返されるオブジェクトはラップされたオブジェクト になり、それ以上は変換の対象にはなりません。静的メソッドオブジェクト は通常呼び出し可能なオブジェクトをラップしますが、静的オブジェクト自体は 呼び出すことができません。静的オブジェクトは組み込みコンストラクタ staticmethod() で生成されます。

クラスメソッドオブジェクト
クラスメソッドオブジェクトは、静的メソッドオブジェクトに似て、 別のオブジェクトを包むラッパであり、そのオブジェクトをクラスや クラスインスタンスから取り出す方法を代替します。 このようにして取得したクラスメソッドオブジェクトの動作については、 上の ``ユーザ定義メソッド (user-defined method)'' で説明されています。 クラスメソッドオブジェクトは組み込みのコンストラクタ classmethod() で生成されます。

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