4. その他の制御フローツール

今しがた紹介した while 文の他に、Python では他の言語で おなじみの普通の制御フロー文を備えていますが、これらには多少 ひねりを加えてあります。


4.1 if

おそらく最もおなじみの文型は if 文でしょう。 例えば、

>>> x = int(raw_input("Please enter an integer: "))
>>> if x < 0:
...      x = 0
...      print 'Negative changed to zero'
... elif x == 0:
...      print 'Zero'
... elif x == 1:
...      print 'Single'
... else:
...      print 'More'
...

elif 部はゼロ個またはそれ以上にできます。 else 部を付けることもできます。 キーワード `elif' は `else if' を短くしたもので、 過剰なインデントを避けるのに役立ちます。 一連の if ... elif ... elif ... は、他の言語における switch 文や case 文の代用と なります。


4.2 for

Python の for 文は、読者が C 言語や Pascal 言語 で使いなれているかもしれない for 文とは少し違います。 (Pascal のように) 常に算術型の数列にわたる反復を行ったり、 (C のように) 繰返しステップと停止条件を両方ともユーザが定義できるように するのとは違い、Python の for 文は、任意の シーケンス型 (リストまたは文字列) にわたって反復を行います。反復の順番は シーケンス中に要素が現れる順番です。 (for example というしゃれではないけれど) 例えば 、

>>> # いくつかの文字列の長さを測る:
... a = ['cat', 'window', 'defenestrate']
>>> for x in a:
...     print x, len(x)
... 
cat 3
window 6
defenestrate 12

反復操作の対象になっているシーケンスをループので書き換える操作 (リストのような、変更可能 (mutable) なシーケンス型でおきます) は、安全 ではありません。もし反復処理を行う対象とするリスト型を変更したいのなら、 (対象の要素を複製するなどして) コピーに対して反復を行わなければ なりません。この操作にはスライス表記を使うと特に便利です:

>>> for x in a[:]: # リスト全体のスライス・コピーを作る
...    if len(x) > 6: a.insert(0, x)
... 
>>> a
['defenestrate', 'cat', 'window', 'defenestrate']


4.3 range() 関数

数列にわたって反復を行う必要がある場合、組み込み関数 range() が便利です。この関数は算術型の数列が入ったリストを生成します。

>>> range(10)
[0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9]

指定した終端値は生成されるリストには入りません。 range(10) は 10 個の値からなるリストを生成し、 ちょうど長さ 10 のシーケンスにおける各項目のインデクスとなります。 range を別の数から開始したり、他の増加量 (負の増加量でさえも; 増加量は時に `ステップ(step)' と呼ばれることもあります) を指定する こともできます:

>>> range(5, 10)
[5, 6, 7, 8, 9]
>>> range(0, 10, 3)
[0, 3, 6, 9]
>>> range(-10, -100, -30)
[-10, -40, -70]

あるシーケンスにわたってインデクスで反復を行うには、 range()len() を次のように組み合わせます:

>>> a = ['Mary', 'had', 'a', 'little', 'lamb']
>>> for i in range(len(a)):
...     print i, a[i]
... 
0 Mary
1 had
2 a
3 little
4 lamb


4.4 break 文と continue 文と ループの else

break 文は、C 言語と同じく、最も内側の for または while ループを中断します。

continue 文は、これもまた C 言語から借りてきたものですが、 ループを次の反復処理に飛ばします。

ループ文は else 節を持つことができます; else 節は、 (for で) 反復処理対象のリストを使い切ってループが終了したとき、 または (while で) 条件が偽になったときに実行されますが、 break 文でループが終了したときは実行されません。 この動作を、素数を探す下記のループを例にとって示します:

>>> for n in range(2, 10):
...     for x in range(2, n):
...         if n % x == 0:
...            print n, 'equals', x, '*', n/x
...            break
...     else:
...          # 因数が見つからずにループが終了
...          print n, 'is a prime number'
... 
2 is a prime number
3 is a prime number
4 equals 2 * 2
5 is a prime number
6 equals 2 * 3
7 is a prime number
8 equals 2 * 4
9 equals 3 * 3


4.5 pass

pass 文は何もしません。pass は、文を書くことが 構文上要求されているが、プログラム上何の動作もする必要がない時に 使われます。

>>> while True:
...       pass # キーボード割り込み (keyboard interrupt) をbusy-wait で待つ  
...


4.6 関数を定義する

フィボナッチ数列 (Fibonacci series) を任意の上限値まで書き出すような 関数を作成できます:

>>> def fib(n):    # n までのフィボナッチ級数を出力する
...     """Print a Fibonacci series up to n."""
...     a, b = 0, 1
...     while b < n:
...         print b,
...         a, b = b, a+b
... 
>>> # 今しがた定義した関数を呼び出す:
... fib(2000)
1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 89 144 233 377 610 987 1597

def は関数の定義 (definition) を導くキーワードです。 def の後には、関数名と仮引数 (formal parameter) を 丸括弧で囲んだリストを続けなければなりません。関数の実体を 校正する実行文は次の行から始め、インデントされていなければなりません。 関数の本体の記述する文の最初の行は文字列リテラルにすることもできます; その場合、文字列は関数の ドキュメンテーション文字列 (documentation string)、または docstring です。

ドキュメンテーション文字列を使ったツールには、オンライン文書や 印刷文書を自動的に生成したり、ユーザが対話的にコードを閲覧できる ようにするものがあります; 自分が書くコードにドキュメンテーション 文字列を入れるのはよい習慣です。書く癖をつけるようにしてください。

関数を 実行 (execution) すると、関数のローカル変数のために 使われる新たなシンボルテーブル (symbol table) が取り込まれます。 もっと正確にいうと、関数内で変数への代入を行うと、その値はすべて このローカルなシンボルテーブルに記憶されます; 一方、変数の参照を 行うと、まずローカルなシンボルテーブルが検索され、その後グローバル なシンボルテーブルを調べ、最後に組み込みの名前テーブルを調べます。 従って、関数の中では、グローバルな変数を参照することはできますが、 直接値を代入することは (global 文で名前を挙げておかない限り) できません。

関数を呼び出す際の実際のパラメタ (引数) は、関数が呼び出されるときに 関数のローカルなシンボルテーブル内に取り込まれます; そうすることで、 引数は 値渡し (call by value) で関数に渡されることになります (ここでの 値 (value) とは常にオブジェクトへの 参照 (reference) をいい、オブジェクトの値そのものでは ありません) 4.1。 ある関数がほかの関数を呼び出すときには、新たな呼び出しのために ローカルなシンボルテーブルが新たに作成されます。

関数の定義を行うと、関数名は現在のシンボルテーブル内に取り入れられます。 関数名の値は、インタプリタからはユーザ定義関数 (user-defined function) として認識される型を持ちます。この値は別の名前に代入して、 その名前を後に関数として使うこともできます。 これは一般的な名前変更のメカニズムとして働きます。

>>> fib
<function fib at 10042ed0>
>>> f = fib
>>> f(100)
1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 89

fib は関数ではなく手続き (procedure) だと異論があるかも しれませんね。Python では C 言語と同様、手続きはただの関数で、 値を返さないに過ぎません。技術的に言えば、実際には手続きも ややつまらない値ですが値を返しています。この値は None と呼ばれます (これは組み込みの名前です)。None だけを 書き出そうとすると、インタプリタは通常出力を抑制します。 本当に出力したいのなら、以下のようにすると見ることができます:

>>> print fib(0)
None

フィボナッチ数列の数からなるリストを出力する代わりに、値を返すような 関数を書くのは簡単です:

>>> def fib2(n): #  n までのフィボナッチ級数を返す
...     """Return a list containing the Fibonacci series up to n."""
...     result = []
...     a, b = 0, 1
...     while b < n:
...         result.append(b)    # 下記参照
...         a, b = b, a+b
...     return result
... 
>>> f100 = fib2(100)    # 関数を呼び出す
>>> f100                # 結果を出力する
[1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89]

例によって、この例は Python の新しい機能を示しています:


4.7 関数定義についてもう少し

可変個の引数を伴う関数を定義することもできます。引数の定義方法には 3 つの形式があり、それらを組み合わせることができます。


4.7.1 デフォルトの引数値

もっとも便利なのは、一つ以上の引数に対してデフォルトの値を指定する 形式です。この形式を使うと、定義されている引数より少ない個数の引数 で呼び出せる関数を作成します:

def ask_ok(prompt, retries=4, complaint='Yes or no, please!'):
    while True:
        ok = raw_input(prompt)
        if ok in ('y', 'ye', 'yes'): return True
        if ok in ('n', 'no', 'nop', 'nope'): return False
        retries = retries - 1
        if retries < 0: raise IOError, 'refusenik user'
        print complaint

この関数は、 ask_ok('Do you really want to quit?') のようにも、 ask_ok('OK to overwrite the file?', 2) のようにも呼び出す ことができます。

デフォルト値は、関数が定義された時点で、関数を 定義している 側の スコープ (scope) で評価されるので、

i = 5

def f(arg=i):
    print arg

i = 6
f()

5 を出力します。

重要な警告: デフォルト値は 1 度だけしか評価されません。 デフォルト値がリストや辞書のような変更可能なオブジェクトの時には その影響がでます。例えば以下の関数は、後に続く関数呼び出しで 関数に渡されている引数を累積します:

def f(a, L=[]):
    L.append(a)
    return L

print f(1)
print f(2)
print f(3)

このコードは、

[1]
[1, 2]
[1, 2, 3]

を出力します。

後続の関数呼び出しでデフォルト値を共有したくなければ、 代わりに以下のように関数を書くことができます:

def f(a, L=None):
    if L is None:
        L = []
    L.append(a)
    return L


4.7.2 キーワード引数

関数を "keyword = value" という形式のキーワード引数を 使って呼び出すこともできます。例えば、以下の関数:

def parrot(voltage, state='a stiff', action='voom', type='Norwegian Blue'):
    print "-- This parrot wouldn't", action,
    print "if you put", voltage, "Volts through it."
    print "-- Lovely plumage, the", type
    print "-- It's", state, "!"

は、以下のいずれの方法でも呼び出せます:

parrot(1000)
parrot(action = 'VOOOOOM', voltage = 1000000)
parrot('a thousand', state = 'pushing up the daisies')
parrot('a million', 'bereft of life', 'jump')

しかし、以下の呼び出しはすべて不正なものです:

parrot()                     # 必要な引数がない
parrot(voltage=5.0, 'dead')  # キーワード引数の後に非キーワード引数がある
parrot(110, voltage=220)     # 引数に対して値が重複している
parrot(actor='John Cleese')  # 未知のキーワードを使用している

一般に、引数リストでは、固定引数 (positional argument) の後ろに キーワード引数を置かねばならず、キーワードは仮引数名から選ばなければ なりません。仮引数がデフォルト値を持っているかどうかは重要では ありません。引数はいずれも一つ以上の値を受け取りません -- 同じ関数呼び出しの中では、固定引数に対応づけられた仮引数名を キーワードとして使うことはできません。この制限のために 実行が失敗する例を以下に示します。

>>> def function(a):
...     pass
... 
>>> function(0, a=0)
Traceback (most recent call last):
  File "<stdin>", line 1, in ?
TypeError: function() got multiple values for keyword argument 'a'

仮引数の最後に **name の形式のものがあると、 仮引数に対応しないすべてのキーワード引数が入った 辞書 を受け取ります。 **name*name の形式をとる、仮引数のリスト を超えた固定引数の入ったタプルを受け取る引数 (次の節で述べます) と組み合わせることができます。 (*name**name より前になければなりません)。 例えば、ある関数の定義を以下:

def cheeseshop(kind, *arguments, **keywords):
    print "-- Do you have any", kind, '?'
    print "-- I'm sorry, we're all out of", kind
    for arg in arguments: print arg
    print '-'*40
    keys = keywords.keys()
    keys.sort()
    for kw in keys: print kw, ':', keywords[kw]

のようにすると、呼び出しは以下:

cheeseshop('Limburger', "It's very runny, sir.",
           "It's really very, VERY runny, sir.",
           client='John Cleese',
           shopkeeper='Michael Palin',
           sketch='Cheese Shop Sketch')

のようになり、もちろん以下のように出力されます:

-- Do you have any Limburger ?
-- I'm sorry, we're all out of Limburger
It's very runny, sir.
It's really very, VERY runny, sir.
----------------------------------------
client : John Cleese
shopkeeper : Michael Palin
sketch : Cheese Shop Sketch

キーワード引数名のリストに対して sort() を呼び出した後に keywords 辞書の内容を出力していることに注意してください; sort() が呼び出されていないと、引数が出力される順番は 不確定となります。


4.7.3 任意引数リスト

最後に、最も使うことの少ない選択肢として、関数が任意の個数の引数で 呼び出せるよう指定する方法があります。これらの引数はタプルに くるまれます。可変個の引数の前に、ゼロ個かそれ以上の引数があっても 構いません。

def fprintf(file, format, *args):
    file.write(format % args)


4.7.4 引数リストのアンパック

引数がすでにリストやタプルになっていて、個別な固定引数を要求する 関数呼び出しに渡すためにアンパックする必要がある場合には、逆の 状況が起こります。例えば、組み込み関数 range() は 引数 startstop を別に与える必要があります。 個別に引数を与えることができない場合、関数呼び出しを * 演算子を使って書き、リストやタプルから引数をアンパック します:

 
>>> range(3, 6)             # 個別の引数を使った通常の呼び出し
[3, 4, 5] 
>>> args = [3, 6] 
>>> range(*args)            # リストからアンパックされた引数での呼び出し
[3, 4, 5]


4.7.5 ラムダ形式

多くの人の要望により、関数型プログラミング言語や Lisp によくある いくつかの機能が Python に加えられました。 キーワード lambda を使うと、名前のない小さな関数を生成できます。 例えば "lambda a, b: a+b" は、二つの引数の和を返す関数です。 ラムダ形式 (lambda form) は、関数オブジェクトが要求されている場所 にならどこでも使うことができます。ラムダ形式は、構文上単一の式に 制限されています。意味付け的には、ラムダ形式はただ通常の関数に 構文的な糖衣をかぶせたものに過ぎません。入れ子構造になった関数定義 と同様、ラムダ形式もそれを取り囲むスコープから変数を参照することが できます。

>>> def make_incrementor(n):
...     return lambda x: x + n
...
>>> f = make_incrementor(42)
>>> f(0)
42
>>> f(1)
43


4.7.6 ドキュメンテーション文字列

ドキュメンテーション文字列については、その内容と書式に関する 慣習ができつつあります。

最初の行は、常に対象物の目的を短く簡潔にまとめたものでなくてはなりません。 簡潔に書くために、対象物の名前や型を明示する必要はありません。 名前や型は他の方法でも得られるからです (名前がたまたま関数の演算内容 を記述する動詞である場合は例外です)。 最初の行は大文字で始まり、ピリオドで終わっていなければなりません。

ドキュメンテーション文字列中にさらに記述すべき行がある場合、 二行目は空行にし、まとめの行と残りの記述部分を視覚的に分離 します。つづく行は一つまたはそれ以上の段落で、対象物の 呼び出し規約や副作用について記述します。

Python のパーザは複数行にわたる Python 文字列リテラルからインデントを 剥ぎ取らないので、ドキュメントを処理するツールでは必要に応じて インデントを剥ぎ取らなければなりません。この処理は以下の規約に従って 行います。最初の行の 後にある 空行でない最初の行が、ドキュメント 全体のインデントの量を決めます。 (最初の行は通常、文字列を開始する クオートに隣り合っているので、インデントが文字列リテラル中に現れない ためです。) このインデント量と ``等価な'' 空白が、文字列のすべての 行頭から剥ぎ取られます。インデントの量が少ない行を書いてはならないの ですが、もしそういう行があると、先頭の空白すべてが剥ぎ取られます。 インデントの空白の大きさが等しいかどうかは、タブ文字を (通常は 8 文字の スペースとして) 展開した後に調べられます。

以下に複数行のドキュメンテーション文字列の例を示します:

>>> def my_function():
...     """Do nothing, but document it.
... 
...     No, really, it doesn't do anything.
...     """
...     pass
... 
>>> print my_function.__doc__
Do nothing, but document it.

    No, really, it doesn't do anything.



... ありません)4.1
実際には、オブジェクトへの参照渡し (call by object reference) と書けばよいのかもしれません。というのは、変更可能なオブジェクトが 渡されると、関数の呼び出し側は、呼び出された側の関数がオブジェクト に (リストに値が挿入されるといった) 何らかの変更に出くわすことに なるからです。
ご意見やご指摘をお寄せになりたい方は、 このドキュメントについて... をご覧ください。