そろそろ抽象論から具体的な議論に移るときがきました。この章で はSubversion が利用される実際の例をお見せします。
既に作業コピーについて読んできたことと思いますので、Subversionのクライアント プログラムが作業コピーを作ったり使ったりする様子を見てみます。
Subversion 作業コピーは、自分のローカルシステム上の普通の ディレクトリツリーで、その中には複数のファイルがあります。あなたは 望むファイルを編集することができ、ソースコードファイルなら、それを 普通にコンパイルすることができます。作業コピーは自分だけの作業領域 です: Subversion はほかの人の変更を持ち込んだりしませんし、明示的に そうしてくれと言うまで、自分の変更を他の人に見せたりすることも ありません。同じプロジェクト用に一人で複数の作業コピーを持つことさえできます。
作業コピーのファイルに変更を加え、それがうまく動作することを 確認したあとで、Subversion はその変更を同じプロジェクトであなたと一緒に 作業しているほかの人に「公開」するためのコマンドを(リポジトリに 書き込むことで)用意します。もし他の人が自分自身の変更を公開したとき にはSubversionはその変更を自分の作業コピーにマージするコマンドを用意します。 (リポジトリの内容を読み出すことで。)
作業コピーには、Subversionによって管理される、いくつかの特殊な
ファイルもあり、その助けによって(読み出し、書き込みなどの)コマンドを
実行します。特に作業コピー中のディレクトリには.svn
という名前の、管理ディレクトリとして知られる
サブディレクトリがあります。管理ディレクトリのそれぞれのファイルは
Subversionがどのファイルにまだ公開していない変更があるか、どのファイルが
他の人の作業によって最新でなくなっているか理解するのを助けるものです。
典型的な Subversion リポジトリは複数のプロジェクトのファイル (またはソースコード)をつかんでいます。普通、それぞれのプロジェクトは リポジトリのファイルシステムツリー中のサブディレクトリになっています。 この構成によって、ユーザの作業コピーは普通、リポジトリの特定の 部分木に対応しています。
たとえば二つのソフトウェアプロジェクト、paint
と
calc
を含むリポジトリが
あるとします。それぞれのプロジェクトはそれぞれの最上位サブディレクトリ
にあります。図 2.6. 「リポジトリのファイルシステム」のような状況です。
作業コピーを持ってくるため、リポジトリ中のどれかのサブツリーを
チェックアウトしなくてはなりません。
(「check out」 という言葉は何かをロックしたり保護したり
するような響きがありますがそうではありません; それは単に自分のための
プロジェクトのコピーを作るだけです。)
たとえば/calc
をチェックアウトするとこんな
感じで作業コピーを手に入れることができます:
$ svn checkout http://svn.example.com/repos/calc A calc/Makefile A calc/integer.c A calc/button.c Checked out revision 56. $ ls -A calc Makefile integer.c button.c .svn/
Aの文字で始まる一覧はSubversionがあなたの作業コピーにいくつかの
ファイルを追加したことを示しています。これでリポジトリにある
/calc
ディレクトリの作業コピーを
持ってくることができました。最初に言ったように、この取得時に
は、もう一つ、.svn
が
作成されますが、これがSubversionに必要な追加情報を格納する
ための場所になります。
button.c
に変更を加えることを考えてみます。
.svn
ディレクトリがファイルの修正時刻と
もともとの内容を記憶しているので、Subversionはあなたがファイルを
変更したかどうかを見分けることができます。しかしSubversionは明示的に
そうしてくれと言われるまでその変更を公にはしません。
自分の変更を公開する操作のことを変更点のコミット
(あるいは チェックイン)と言います。
変更点を他の人に公開するにはSubversionのcommit コマンドを使います:
$ svn commit button.c Sending button.c Transmitting file data . Committed revision 57.
これでbutton.c
への変更はリポジトリに
コミットされました。もし別のユーザが/calc
の作業コピーを作るのにチェックアウトすれば、最新バージョン中に
あなたの変更点を見ることになるでしょう。
一緒に作業している Sally が、あなたがチェックアウトしたのと同じ時刻に
/calc
の作業コピーを自分用にチェックアウト
したとしましょう。あなたがbutton.c
への自分の
変更をコミットしても、Sallyの作業コピーは変更されない状態のままです。
Subversionはユーザの要求によって初めて作業コピーの内容を変更します。
作業内容をプロジェクトの最新の状態にするには、SallyはSubversionに 自分の作業コピーを更新 するように依頼しなくては なりません。これにはupdate コマンドを使います。 これはあなたの変更を彼女の作業コピーにマージしますし、彼女がチェック アウトしたあとで他の人がコミットしたすべての部分についてもマージします。
$ pwd /home/sally/calc $ ls -A .svn/ Makefile integer.c button.c $ svn update U button.c Updated to revision 57.
svn updateコマンドからの出力は
Subversionがbutton.c
の内容を
更新したことを示しています。Sally はどのファイルを更新
するかを指定する必要がないのに注意してください。Subversion
は .svn
ディレクトリの情報と
リポジトリの情報を使って、どのファイルを更新しなくてはならないか
を決定します。
svn commit操作は一つのトランザクション として任意の数のファイル、ディレクトリに対する変更点を公開する ことができます。作業コピー中で、ファイルの内容を変えたり、新しい ファイルを作ったり、削除したり、名前を変えたり、ファイルや ディレクトリをコピーしたあと、それらの変更点の全体を完全なひと かたまりのものとしてコミットすることができます。
リポジトリでは、それぞれのコミットは、一つの分割できないひと かたまりのトランザクションとして扱います。すべてのコミットに よる変更は、完全に実行されるか、まったく実行されないかの どちらかです。Subversionは、この不分割の性質を、プログラム 障害、システム障害、ネットワーク障害、その他の操作があった 場合でも保とうとします。
リポジトリがコミットを受け付けるときは常に リビジョンと呼ばれるファイルシステム ツリーの新しい状態を作ります。それぞれのリビジョンには 一意な自然数が割り当てられます。前のバージョンよりも 後のバージョンのほうが数が大きくなります。 リポジトリ新規作成時の最初のバージョンはゼロで、ルートディレクトリ 以外には何も含まれていません。
図 2.7. 「リポジトリ」はリポジトリを視覚化するうまい方法 を示しています。0から始まるリビジョン番号が、左から右に追加されていく 状況を想像してください。それぞれのリビジョン番号には対応した ファイルシステム木があり、それぞれの木はコミット 後のリポジトリの状態を示す「スナップショット」 です。
作業コピーは常にリポジトリのどれか一つのリビジョン対応しているとは 限らないことに注意してください。複数の異なるリビジョンのファイル を含んでいるかも知れません。たとえば、最新リビジョン番号が4である リポジトリから作業コピーをチェックアウトしたとします:
calc/Makefile:4 integer.c:4 button.c:4
この時点では、作業コピーはリポジトリのリビジョン4と完全に一致しています。
しかし、ここで button.c
に変更を加え
その変更をコミットしたとします。他にコミットした人がいない場合、
今回のコミットはリポジトリのバージョンを5にあげ、作業コピーの内容は
以下のようになります:
calc/Makefile:4 integer.c:4 button.c:5
この時点でSallyがinteger.c
に対する修正を
コミットし、リビジョンを6にあげたとします。ここでもし、svn update
コマンドであなたの作業コピーを更新すると、次のようになるでしょう:
calc/Makefile:6 integer.c:6 button.c:6
Sallyのinteger.c
への変更は
あなたの作業コピーに現れますが、button.c
に対するあなたの変更はそのままです。この例では、
Makefile
のテキストは、リビジョン4,5,6で
まったく同一のものですが、Subversionはあなたの作業コピー中の
Makefile
のリビジョンを6として、
それが最新であることを表現します。それで自分の作業コピーに
きれいなアップデートをかけたときには、一般に作業コピーは
リポジトリのある特定のバージョンと完全に一致します。
作業コピー中のそれぞれのファイルについて、Subversionは
二つの本質的な情報を.svn/
管理領域に
記録します:
あなたの作業ファイルは、どのリビジョンに基づいているか (これはファイルの作業リビジョンと呼ばれます)、 そして
リポジトリとの対話によって作業コピーが最後に更新された時刻
これらの情報とリポジトリとの対話によって、Subversionは作業ファイルの それぞれが、以下の四つの状態のどれにあるかを見分けることができます:
作業コピーのファイルは変更されていないし、その作業リビジョン 以降に起きたリポジトリに対するコミットでもそのファイルに対する変更が ない状態。 そのファイルに対するsvn commitは何も実行しませんし、 svn updateも何もしません。
作業コピー中のファイルは変更されましたが、そのベースリビジョン以降の リポジトリへのコミットで、そのファイルに対する変更が何もなかった 場合。作業コピーにはまだリポジトリにコミットしていない変更がある ので、そのファイルに対するsvn commitは、 あなたの変更点をそのまま公開することで成功します。svn update は何も実行しません。
ファイルは作業コピー中では変更されていませんが、リポジトリには 変更がありました。このファイルは、公開リビジョンによって最新とするために どこかで更新する必要があります。そのファイルに対するsvn commit コマンドは何もしません。そのファイルに対するsvn updateは あなたの作業コピーに最新の修正点をマージします。
ファイルは作業コピーでも、リポジトリでも変更されています。 ファイルに対するsvn commitは「out-of-date」 エラーになります。そのファイルはまず更新しなくてはなりません。 ファイルに対するsvn updateは公開されている変更点 を作業コピーの変更にマージしようとします。これが自動的にできないような 状況の場合、Subversionはユーザに衝突の解消をさせるためそのままにして おきます。
これにはいろいろな情報の変化を追う必要があるように思いますが、 svn status コマンドを使えば、あなたの作業コピーの どのファイルの状態も表示できます。このコマンドについてのより詳しい情報は svn status項 を見てください。
原則として、Subversionはできる限り柔軟であろうとします。 この特別な例として、作業コピーに、いろいろな異なる作業リビジョン番号を もったファイルとディレクトリを共存させることが できます。前の例での混合リビジョンに戸惑っている人のために、 なぜこのような機能が必要で、どのように利用したらよいかを以下に示します。
Subversion での基本的な原則の一つは、「作業コピーへの取得(push)」の動作 が「リポジトリへの反映(pull)」動作を自動的に引き起こすことは ないし、逆もないということです。これは、あなたがリポジトリへの新しい変更点を 送信する用意ができているということが、他の人たちの変更点を受け取る用意が できていることを意味していることはないという、当たり前の理由によります。 そして自分がまだ引き続き新しい修正を加えている場合、 svn update は自分自身の作業コピー中にリポジトリの内容をうまく反映してくれるはずで、 このさい、あなたの側の変更点を強制的に他の人々に公開する必要はありません。
この規則はまた副次的に、作業コピーには混合リビジョンの状態を記録する ための特殊な仕組みが必要になり、またその状態に対して寛容でなければならない ことを意味しています。これはディレクトリ自身もバージョン管理できる ためさらに複雑な話になります。
たとえば、作業コピーが完全にリビジョン 10 にあるとします。foo.html
を編集してsvn commitを実行した結果、リポジトリにリビジョン 15
ができたとします。このコミットが成功した直後では、多くの不慣れなユーザは
作業コピーは完全にリビジョン 15 にあるだろうと期待するかも知れませんがそうでは
ないのです!。リビジョン10 とりビジョン15 までの間にリポジトリに対していろいろな変更が
起こったかも知れないのです。クライアント側ではリポジトリに起きたこの変更については
何も知りません。まだ svn update を実行していませんし、
svn commit は新しい変更点をリポジトリから取得したりはしないからです。
一方、もしかりにsvn commitが自動的に最新の変更点をダウンロード
するとすれば、作業コピー全体を完全にリビジョン 15 に設定することも可能
でしょう—しかしこれでは「push」と「pull」
が独立した処理であるという基本的な原則を侵すことになります。
このため Subversion クライアントができる唯一の安全な方法は、ある特定の
ファイル—foo.html
—がリビジョン 15 にある
という印をつけることだけです。作業コピーの残りのファイルはリビジョン 10 の
ままなのです。svn updateを実行することだけが、最新の変更点
をダウンロードする方法であり、これで作業コピー全体にリビジョン 15 の印がつきます。
事実として、svn commitを実行するときは 常に、あなたの作業コピーはあるいくつかのリビジョンの 混合状態となります。コミット対象となったファイルだけは、それ以外のファイル よりも新しい作業リビジョンになります。何度かのコミットの後で( その間に update を含めなければ)、作業コピーはいくつかのリビジョンの 混合状態になります。あなたがリポジトリを利用している唯一のユーザであったと してもやはりこの現象に出会うでしょう。作業リビジョンの混合状況を見る にはsvn status --verboseコマンドを利用して ください(さらに詳しい情報については svn status項を見てください)。
不慣れなユーザは自分の作業コピーが混合リビジョンになっていることには まったく気づかないことがよくあります。多くのクライアントコマンドは 処理対象となるアイテムの作業コピー上でのリビジョンが問題になるので 混乱することになります。例えばsvn logコマンドは ファイルあるいはディレクトリの変更履歴を表示するために利用されます (svn log項参照)。ユーザがこのコマンド を作業コピー上野オブジェクトに対して実行するとき、そのオブジェクト の完全な履歴を見れるものだと考えるでしょう。しかしそのオブジェクトの 作業コピー上のりビジョンが非常に古いものであった場合(これは svn updateが長い期間にわたって実行されなかったような 場合におこります)、そのオブジェクトの より古い バージョン履歴が表示されるでしょう。
プロジェクトが非常に複雑になった場合、作業コピー中の一部のファイル を強制的に「古い日付」をもった以前のリビジョンに戻すことが 有用であることに気づくでしょう; どうやるかについては 3 章で説明します。 たぶん、あるサブディレクトリにあるサブモジュールの以前のバージョンを テストしたいか、特定のファイルに存在するバグが最初に紛れ込んだ リビジョンを知りたいとかいった場合でしょう。これはバージョン管理 システムの 「タイムマシン」としての性質の一つです— つまり、作業コピーの任意の部分を履歴の中のより新しい状態や古い状態に 移動することができるのです。
作業コピー中を混合リビジョン状態に置くことはできますが、 この柔軟性には制約があります。
まず、完全に最新状態ではないファイルやディレクトリの削除を コミットすることができません。より新しいバージョンのアイテムが リポジトリに存在する場合、この試みは拒否されます。まだあなたが 見ていない変更点を間違って消してしまうことを防ぐためです。
次に、完全に最新状態ではないディレクトリに対するメタデータの変更 はコミットできません。アイテムに対する 「属性」の 付与は 6 章で扱います。ディレクトリの作業リビジョンは特定の エントリと属性の組を定義し、最新のディレクトリへの属性の 変更点のコミットは、やはりまだ見ていない変更点を間違って消して しまうかも知れないからです。